小林よしのり著 『新天皇論』
本書は、社会学に関する著者の見解を公表するツールとしての漫画『ゴーマニズム宣言』のスペシャル版である。本書は、小林の「天皇論」シリーズである『天皇論』、『昭和天皇論』に続く第3弾である。本書のテーマは、「皇位継承問題」についてである。
小林の「皇位継承問題」に関する意見は、「女系及び女性天皇」賛成である。これは、平成17年秋に出された小泉首相(当時)の諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」の報告書の内容と同意見である。
その根拠は、以下のとおりである。
①「皇室典範」の改正に当たっては、天皇陛下の意思が尊重されるべきである。
昭和22年制定の「皇室典範」は、日本国憲法第2条の規定により、その改正は国会決議が必要であるが、元来「皇室典範」は皇室の家法であり、天皇陛下の意思が尊重されるべき。皇位継承に関する天皇陛下のご意思は、「女系及び女性天皇容認」であると考えられる(羽毛田宮内庁長官、渡邉前侍従長の発言より拝察)。
③「皇系」は、男系のみならず、女系を含むと解するべきである。
「皇系=男系」というイデオロギーの論拠に、生物の雄・雌を決定する要因として遺伝子のX染色体とY染色があり(Y染色体が雄を作る)、歴代天皇は神武天皇のY染色体を有しているという考えがある。生物学の進歩により、生物の雄・雌の決定は、XY染色体のみならずSRY遺伝子の変異が影響していることが判明している。従って、Y染色体の継承を根拠として、男系継承を主張する理論は破綻している。
④現実的に、男系承継は困難である。
男系継承論者の皇位継承問題への対策である「旧宮家子孫の皇籍取得」は、非現実的であり、かつ、対策として不十分である。
上記の根拠の他に、小林が、男系継承論者に対して、以下の点を指摘している。
・歴史的に「女系天皇」は存在した(元明天皇、元正天皇)。また、単なるつなぎではなく、実質的な権力者としての「女性天皇」も存在した(持統天皇、孝謙(称徳)天皇)。
・男系継承は、シナ宗族制の模倣である(日本の歴史、慣習には必ずしも合致しない)。
・男系承継論の根底に、明治時代以降の「男尊女卑」感情がある。
小林の、皇統や古代史等について真摯に研究する姿勢は、非常に好感が持てる。また、男女を問わず、「直系」を尊重するという意見も共感できる。小林の言うとおり、我が日本が、古事記の時代以来、維持してきた「天皇」の制度を守ることは、日本の国体及び日本人のアイデンティティの維持のためには必要不可欠であり、皇位継承問題は非常に重要、かつ早急に解決すべき問題と考えられる。
従来、この問題に関して不勉強であった私は、本書により、小林たちが主張する「女系及び女性天皇容認論(小林は「公認論」と言う)」を支持したいと考えるようになった。本問題について、今後、自分なりに研鑽を重ねる必要性を認識するとともに、政治家の皆さんに対しても一層の勉強と早急な対応を期待するものである。