梅原猛著 『葬られた王朝―古代出雲の謎を解く―』

 明けましておめでとうございます。

私のブログは、不定期、かつ、首尾一貫しない内容ではありますが、本年も折に触れて、記載していきたいと思っています。

本年も宜しくお願いします。

 私は、例年、年末年始の休みに、日頃、興味があって購入したものの、心に余裕がないため、読めずにいる本を、まとめて読むことにしています。そして、興味深い内容の本の場合は、メモ紙に内容をまとめながら読み進みます。2010年末から2011年初にかけて読んだ以下の3冊は、非常に興味深く、刺激的な内容でした。

 今回は、この3冊について、自分の頭を整理するために「書評」を書いてみました。興味を惹く内容がありましたら、是非ともご一読下さい。

梅原猛著『葬られた王朝 ―古代出雲の謎を解く―』

小林よしのり著 『新天皇論』

白洲正子著『十一面観音巡礼』

今回は、梅原猛著『葬られた王朝 ―古代出雲の謎を解く―』について。

 本書では、古事記日本書紀等の記紀に記述されているいわゆる「出雲神話」を、全くのフィクションとする我が国の通説を根底から覆す梅原の新学説が唱えられている。私たちは、歴史教科書で、縄文時代弥生時代の次には、今上天皇の祖先である神武天皇を始祖とする飛鳥・奈良時代が出現すると教えられた。つまり、我が日本には、「ヤマト王朝」以前には、文明国家はないと教えられた。

しかし、梅原の学説は次のようである。

・「ヤマト王朝」の前に、出雲の地を中心とした「出雲王朝」が実際に存在した。

・「出雲王朝」の支配圏は、北信越、中部、近畿、中国、四国、九州に及んだ。

オオクニヌシの下で急拡大した「出雲王朝」は、内外の理由から「ヤマト王朝」に覇権を奪われた。

・「ヤマト王朝」は、統治を堅固なものにするとともに、王朝の正当性を後世に伝えるために、「出雲王朝」からの平和的な「国譲り」があったという出雲神話を作った。

出雲大社荒神谷遺跡、加茂岩倉遺跡、神原神社古墳等の出雲の考古学的遺跡は、「出雲王朝」の存在を立証するものであるとともに、「ヤマト王朝」による「出雲王朝」への怨霊鎮魂の碑である。

 私は、我が国家や民族の正確な歴史について知ることは、自らのアイデンティティを確立するために大変に重要であると思うとともに、理屈抜きで、何故かしら熱いロマンを感じる。梅原は、私たちが知る「神話」の主人公であるオオクニヌシ等を、単なるフィクションでなく史実であるという。また、オオクニヌシの下、弥生時代には、文明的な国家があったという。何とも夢のあるスケールの大きな物語であろう。私は、梅原の「神話を失った民族が末永く繁栄を続けることができるとは思われない」という言葉に深く感動した。

 また、梅原の学説に説得力がある理由について、私は以下のように考える。

古事記日本書紀が、いかなる政治的背景(「ヤマト王朝」の正当性確立、藤原不比等による政治的基盤作り等)により作られたかを詳細に分析している。

・梅原の専門分野のみに拠らずに、歴史学、国文学、神話学、宗教学、民俗学、考古学等の関連学問についても一定の水準まで研究している。

・従来の通説(本居宣長津田左右吉)が構築された時には未発見の考古学的遺跡(荒神谷遺跡、加茂岩倉遺跡、神原神社古墳等)の検討が反映されている。

 私は、本書の内容は、将来、私たちの子孫が学ぶ、我が国の歴史教科書に大きな影響を与える学説ではないかと思う。そして、その内容は、今まで以上に、我が国の文明国家の成立の早さを立証する、誇るべきものであると思う。

 最後に、恥ずかしい話だが、私は今まで、古事記に関する正確な知識がなかった。イザナギイザナミノの「国生み」、アマテラスとスサノオの「天の石屋戸事件」、オオクニヌシの「国造り」、アマテラスの孫ニニギの高千穂への降臨と「国譲り」、そしてカムヤマトイワレヒコ(神武天皇)の活躍等。私にとっては、本書は、古事記のよい復習の機会だった。